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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1070号 判決 1997年9月03日

原告

小澤良子

被告

梶本茂

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金九一七万六五三一円及びこれに対する平成元年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その一九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金二億円及びこれに対する平成元年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負った原告が、被告梶本茂(以下「被告茂」という。)に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、被告梶本えり子(以下「被告えり子」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

また、被告らの債務は、不真正連帯債務である。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成元年一二月二五日午後六時三〇分ころ

(二) 発生場所

兵庫県明石市魚住町金ケ崎八五一番地の一先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様

被告えり子は、普通乗用自動車(神戸五二は六七九一。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を東から西へ直進しようとしていた。

そして、本件交差点内または本件交差点の南側横断歩道付近にいた原告と被告車両とが衝突した。

2  責任原因

被告茂は、被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

また、被告えり子は、本件事故に関し、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の傷害

原告は、本件事故により、脳挫傷、外傷性脳出血、右大腿骨骨折、左脛骨骨折、骨盤骨折等の傷害を負い、平成五年四月三〇日、症状固定の診断を受けた。

そして、その後遺障害は、自動車損害賠償責任保険手続において、自動車損害賠償保障法施行令別表一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)に該当する旨認定された。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び過失相殺の要否、程度

2  原告に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  被告ら

被告えり子は、被告車両を運転し、青色信号にしたがって、本件交差点を東から西へ直進しようとしていた。そして、本件交差点東側にある横断歩道付近の手前にさしかかった時、突然、犬が自車前方に飛び出し、被告車両はこれと衝突した。

ついで、犬の後を追って原告が被告車両前方に飛び出し、被告車両は原告と衝突した。

したがって、原告と被告車両とが衝突した地点は、本件交差点内の西行き車線上である。

そして、右事故態様によると、原告は赤信号を無視して被告車両の前方に飛び出してきたという重大な過失があるから、相応の過失相殺をなすべきである。

2  原告

本件事故の直前、原告は犬の後を追いかけたが、その方向は、本件交差点南西角の歩道から真東に向かってであった。

そして、原告は、犬を避けるために左にハンドルを切った被告車両と、本件交差点の南側にある横断歩道上で衝突した。

したがって、原告は、赤信号を無視して車道に飛び出したわけではなく、原告には、過失相殺の対象となるべき過失は存在しない。

五  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

六  本件の口頭弁論の終結の日は平成九年四月二二日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第一三ないし第二二号証、第二五号証、第三六号証、検甲第一号証の一ないし一二、検甲第二号証の一ないし四、検甲第三号証の一ないし一一、乙第一号証、第三ないし第一〇号証、証人西海信子の証言、原告法定代理人小澤美和子及び被告梶本えり子の各本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、ほぼ東西に走る道路と、ほぼ北北西の方向と南南東の方向とを結ぶ道路とからなる、やや変形した十字路である。

そして、右東西道路は五車線からなり、本件交差点の東側では中央分離帯をはさんで、西行き車線が三車線(幅員合計約九・八メートル。うち一車線は右折車専用車線である。)、東行き車線が二車線(幅員合計約七・五メートル)ある。また、これとは別に、北側には幅約四・三メートルの、南側には幅約五・三メートルの歩道があり、車道と歩道とは、植込みや段差のあるコントリートブロックで厳然と区別されている。

また、本件交差点の南側の横断歩道は、東西道路の西行き車線の南端から二メートル以上南に寄った位置を北端として設けられており、右横断歩道の北側には自転車横断帯が、さらにその北側(西行き車線の南端の南側)の本件交差点の南西角には、いわゆる二段階右折をする原動機付自転車の待機場所を表示する道路標示が設けられている。

(二) 被告えり子は、被告車両を運転し、西行き車線のもっとも南側の車線を走行して、本件交差点を東から西へ直進しようとしていた。。

なお、本件事故の発生する直前の被告車両の速度は、時速約五〇キロメートルであり、その時点における本件交差点の東西方向の信号の色は、青色であった。

(三) 他方、原告(本件事故当時満一一歳)は、母である小澤美和子とともに、犬の散歩中であった。

そして、本件事故の発生する直前、小澤美和子は、犬の鎖を持ち、本件交差点の南西角から西に約六・五メートルの地点あたり、右東西道路の南側の歩道の南端付近で、犬の用便をさせていた。また、原告も、そのかたわらに立っていた。

ところが、急に、犬が東やや北方に向かって走り出し、小澤美和子の手から犬の鎖が離れた。その直後、原告も犬を追って同一方向に走り出し、本件事故に遭遇した。

(四) 原告と被告車両とが衝突した瞬間を目撃した第三者は存在しない。

また、被告えり子も、一瞬の出来事であり、気が動転したこともあって、原告との衝突の瞬間を記憶していない。なお、同被告の記憶にあるのは、被告車両が、何かわからないが二個の物とあいついで衝突し、被告車両が停止した後に、倒れている原告と犬とを認めたということのみである。そして、同被告は、犬及び原告の倒れている場所から、被告車両が、まず犬と、ついで原告と衝突したと判断した。

(五) 本件事故後、犬は、本件交差点の東側にある横断歩道の西に設けられている自転車横断帯で動けずにうずくまっているのが発見された。

また、原告は、本件交差点内の、西行きの一番南側の車線の延長線上に倒れた。

さらに、原告の靴が、いずれも、本件交差点内の、西行きの南から二番目の車線の延長線上に放り出された。

(六) 本件事故後、被告車両は、本件交差点の南西角にある信号柱に接するようにして、西からやや南を向いて停止した。

2  なお、乙第一号証、第四号証、第七ないし第一〇号証によると、被告えり子、及び、本件事故の直後に本件交差点を西から東に車両を運転して直進した佐野徹哉、本件交差点を東から西に車両を運転して直進した能見香詠子、右車両に同乗していた福住典子、同じく本件交差点を東から西に車両を運転して直進した島脇哲子、本件交差点を西から南に車両を運転して右折しようとしていた山口茂は、いずれも、それぞれが立会人となった実況見分において、原告の倒れた位置が、右認定地点よりも交差点の中央部に近い、本件交差点内の、西行きの南から二番目の車線の延長線上であった旨指示説明したことが認められる。

しかし、甲第一七、第一八号証によると、島脇哲子と山口茂は、原告の父母に対し、原告の倒れた位置が右認定地点付近であると述べていることが認められ、これと、過失相殺の対象となる原告の過失を基礎づける事実については被告らに立証責任があることとを考慮して、原告にとってもっとも有利となるように、原告の倒れた位置を認定した次第である。

3  ところで、本件事故の直前、原告は西から東へ向かっていたとはいえ、その速度は子供が小走りにしていた程度であり、被告車両の速度よりもはるかに遅いから、原告と被告車両とが衝突した後、原告が衝突地点よりも被告車両の後方である東側にはね飛ばされることは考えづらい。

そして、右認定の原告の倒れた位置及び原告の靴の放り出された位置に照らすと、原告と被告車両の衝突地点は、本件交差点の東側の自転車通行帯のやや西の地点であり、西行き車線のうち、もっとも南側の車線の延長線上であったというべきである。

また、前認定のとおり、原告と被告車両とが衝突した時点においては、被告車両の進行する東西方向の信号の色は青色であったのであるから、原告には、青色で直進しようとする被告車両の直前に飛び出した過失があるというべきである。

さらに、本件事故のそもそもの原因が、原告の母親である小澤美和子が、連れていた犬が急に走り出したのに対して、手にしていた鎖を離してしまったことにあることをも考慮すると、本件事故に対する被害者側の過失の割合を七五パーセントとして、この割合による過失相殺をするのが相当である。

二  争点2(原告に生じた損害額)

争点2に関し、原告は、別表の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、原告の損害として認める。

1  損害

(一) 治療費

被告らは、次の治療費合計金六〇三万〇四七九円が発生し、これを被告らが負担した旨主張し、原告はこれを認める旨の答弁をする。

大阪脳神経外科病院 金一〇三万五六五七円

西江井島病院 金二七万六九三〇円

順心病院 金一八五万四一〇〇円

ボバース記念病院 金一三八万四八六二円

社会保険神戸中央病院 金一四七万八九三〇円

そして、過失相殺が問題となる本件においては、これを損害として計上するのが相当である。

(二) 入院雑費

原告が、平成元年一二月二五日から平成四年三月二〇日まで(八一七日間)、順次、西江井島病院、順心病院、大阪脳神経外科病院、加古川市民病院、社会保険神戸中央病院に入院したことは、当事者間に争いがない。

そして、入院雑費は、入院一日あたり金一三〇〇円の割合で認めるのが相当であり、次の計算式により、金一〇六万二一〇〇円となるところ、原告の主張はこれを下回るので、その限りで認めることとする。

計算式 1,300×817=1,062,100

(三) 職業付添人による付添看護費等

(1) 症状固定までの分 金三五二万四〇〇一円

甲第一一号証の一ないし二七、職業付添人に対する付添看護費として、平成二年一月一四日から同月一九日まで金八万〇四一六円、平成二年一一月一日から平成三年七月三一日まで金二一九万七三九五円、平成四年五月分から平成五年四月分まで金一二一万八八〇〇円を認めることができる。

また、甲第一一号証の三三ないし三八によると、平成四年四月分から九月分までのホームヘルパー派遣費用合計金二万七三九〇円を認めることができる。

そして、前記争いのない原告の傷害の部位、程度によると、これらはいずれも本件事故と相当因果関係のある損害というべきであるから、この間の職業付添人による付添看護費は、合計金三五二万四〇〇一円である。

なお、原告が平成九年二月一九日付準備書面で主張する寝台車運送費金三万円と平成三年八月一日から一九日までの付添看護費金一五万一九七〇円は、その発生を認めるに足りる証拠がない。また、原告は、右準備書面で、平成四年九月分の付添人費用を金一四万三三〇〇円と主張するが、甲第一一号証の二二により金一四万三三二〇円の誤記であると認める。

(2) 症状固定後の分 金四一二二万五四九〇円

甲第一一号証の二八ないし三二によると、原告は、症状固定の直後である平成五年五月から一〇月まで(ただし、八月を除く。)の五か月間に、職業付添人に対して金六五万一八四〇円を支払ったことが認められ、甲第三七号証、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果によると、現在でも、一か月に一五日程度、原告に職業付添人を付することが必要であることが認められる。

そして、前記争いのない原告の後遺障害の内容によると、原告は、生涯、同様の頻度で職業付添人を付する必要があるというべきである。

なお、弁論の全趣旨(具体的には訴状添付の戸籍謄本)によると、原告は昭和五三年四月二一日生まれであるから、本件事故の時点では満一一歳であり、症状固定の時点では満一五歳であった。そして、甲第三七号証、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告が平均余命程度は生存を続けることに合理的な疑いをいれることはできないから、その期間を原告の主張する症状固定時から六七年とするのが相当である。

また、本件事故時の現価を求めるため、中間利息の控除につき新ホフマン方式によることにすると(四年の新ホフマン係数は三・五六四三、七一年の新ホフマン係数は二九・九一六三。)、症状固定後の職業付添人による付添看護費は、次の計算式により、金四一二二万五四九〇円となる(円未満切捨て。以下同様。)。

計算式 651,840÷5×12×(29.9163-3.5643)=41,225,490

(3) 小計

(1)及び(2)の合計は金四四七四万九四九一円である。

(四) 家族による付添看護費

甲第三七号証、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果により認められる原告の日常生活の内容と、当事者間に争いのない原告の傷害の部位、程度、後遺障害の内容とを併せ考えると、原告は、本件事故後、生涯にわたって、職業付添人のほかに、家族による献身的な付添看護が必要であるというべきである。

そして、前記のとおり、生涯にわたる職業付添人の費用を計上したことに鑑み、右家族による付添看護費としては、一日あたり金三〇〇〇円の割合で認めるのが相当である。

また、本件事故時の現価を求めるため、中間利息の控除につき新ホフマン方式によることにすると(症状固定の前後で性質が変わるものではないため、本件事故時から通じて計算することとし、七一年の新ホフマン係数二九・九一六三による。)、家族による付添看護費は、次の計算式により、金三二七五万八三四八円である。

計算式 3,000×365×29.9163=32,758,348

(五) 後遺障害による逸失利益

甲第三七号証、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果によると、原告は、養護学校の高等部を卒業したことが認められる。

そして、前記争いのない原告の後遺障害の内容によると、原告は、本件事故がなければ、高等学校を卒業して就労すべきところ、右卒業時の一八歳から就労可能年齢である満六七歳まで、労働能力のすべてを喪失したとするのが相当である。

また、後遺障害による逸失利益を算定するための基礎となるべき金額は、賃金センサス平成四年度第一巻第一表の産業計、企業規模計、女子労働者、旧中・新高卒、一八~一九歳に記載された年間金二〇二万五七〇〇円によることが相当であるところ、原告は、これを下回る、同表の産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計、一八~一九歳に記載された年間金二〇二万三三〇〇円によることを主張するのでこれによることとし、本件事故時の現価を求めるため、中間利息の控除につき新ホフマン方式によることにすると(五六年の新ホフマン係数は二六・三三五四、七年の新ホフマン係数は五・八七四三。)、後遺障害による逸失利益は、次の計算式により、金四五五八万五七五八円となる。

計算式 2,023,300×(26.3354-5.8743)=41,398,943

なお、被告らは、少なくとも五〇パーセントの生活費控除をすべきである旨主張するが、甲第三七号証、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告は、相応の生活費を現実に要することが認められるので、採用の限りではない。

(六) 自宅改造費

甲第二号証の一ないし四、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果によると、本件事故後、原告の自宅は、原告が車椅子で日常生活を営むことなどができるようにするための改造が加えられたこと、右費用として金六一八万円を要したことが認められる。

そして、右各証拠により認められる改造の内容と当事者間に争いのない原告の後遺障害の内容とを照らしあわせると、右改造費は、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(七) その他

(1) 序

ア 原告の主張するその他の損害の計算根拠は、原告の平成九年二月一九日付準備書面添付の別紙計算書(以下「原告計算書」という。)のとおりであるが、右計算書は、次のとおりの計算で成り立っている。

<1> 各年ごとに、年五分の複利計算をし、これを比率欄に記載する(小数第八位を四捨五入)。

例えば、五年に相当する比率欄には、次の計算式の積の小数第八位を切り上げた一・二七六二八一六が記載されている。

計算式 1.05×1.05×1.05×1.05×1.05=1.2762815625

<2> 各項目ごとの各年ごとに、金額欄を該当する比率の価でわった商を記載する。

例えば、項目No.1の五年に相当する欄には、次の計算式の商の四六万八〇七九円が記載されている。

計算式 597,400÷1.2762816=468,078.5…

<3> 各項目ごとに、耐用年数等を考慮して、それが必要となる年(零を基数に耐用年数等を加えた年)に黄色のマークをする。

<4> 黄色のマークがされた金額を加えて、当該項目の合計とする。

イ しかし、右計算方法は、当裁判所が相当と考える計算方法に比べ、<1>及び<3>において、原告にとって不利益な方法である。

すなわち、<1>に関しては、中間利息の控除について、他の損害の計算同様、新ホフマン方式によるのが相当であり、単利計算が行われるべきである。例えば、五年に相当する比率の欄には、次の計算式による一・二五が記載されるべきである。

計算式 1+0.05×5=1.25

また、<3>に関しては、例えば、項目No.1の電動チルトテーブルについては、平成五年に購入された後(甲第三号証の二)、八年ごとに購入される必要があるため(甲第三号証の一)、年数欄の四(平成五年は本件事故発生から四年後)、一二、二〇、二八、三六、四四、五二、六〇、六八に黄色のマークがされる必要がある。

ウ そこで、当裁判所が相当と考える計算方法でそれぞれの項目を計算し、その金額が原告の主張を上回るときは、弁論主義の適用により、原告の主張の限りで損害を認めることとする。

なお、当裁判所が相当と考える計算方法の計算結果は、別紙計算書のとおりである。

(2) 電動チルトテーブル 金一一九万六一〇八円

甲第三号証の一、二によると、電動チルトテーブルは、平成五年に金五九万七四〇〇円で購入され、以後八年ごとに購入する必要があることが認められる。また、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果により認められる電動チルトテーブルの使用状況と当事者間に争いのない原告の後遺障害の内容とを併せ考えると、右購入費用は、本件事故と相当因果関係のある損害であるというべきである(以下の項目については、特に断わりのない限り、同様に、本件事故と相当因果関係のある損害であることが認められるため、この点についての判示を省略する。)。

そして、別紙計算書2記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(3) 同部品(マットレザー) 金一八万七三二六円

甲第三号証の一、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、平成七年(平成五年の二年後)から、二年に一回、金二万円のマットレザーの購入が必要であることが認められるが、これは電動チルトテーブルの部品であって、現存する電動チルトテーブルの古い部品と交換するものであるから、新しい電動チルトテーブルを購入する時点では、購入の必要がないことが認められる。

そして、別紙計算書3記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(4) 同部品(アクチュエータモータ) 金三五万六三〇七円

甲第三号証の一、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、平成八年(平成五年の三年後)から、三年に一回、金五万八五〇〇円のアクチュエータモータの購入が必要であることが認められるが、前同様、新しい電動チルトテーブルを購入する時点では購入の必要がない。

したがって、八年ごとに、三年目と六年目に購入が必要となり、別紙計算書4記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(5) 同部品(コントローラ) 金九万五八九〇円

甲第三号証の一、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、電動チルトテーブルを購入した五年後ごとに、金三万〇三〇〇円のコントローラの購入が必要であることが認められる。

したがって、別紙計算書5記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、金九万五八九〇円である。

(6) 車椅子本体 金六六万五一四六円

甲第三号証の一、三、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、平成五年(原告は満一五歳)と平成七年(原告は満一七歳)から四年ごとに、金一三万四九〇五円の車椅子本体の購入が必要であることが認められる。

そして、別紙計算書6記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(7) 同部品 金一六万一四六五円

甲第三号証の一、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、車椅子を購入した二年後ごと(新規に車椅子本体を購入する年を除く。)に、車椅子の部品であるメカニカルロック、ワイヤー、背面シート、座面シート、タイヤ二本、チューブ二本、合計金三万六四〇〇円の購入が必要であることが認められる。

そして、別紙計算書7記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(8) 両短下肢装具 金一二五万一二九二円

甲第三号証の一、四、五、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、平成五年(原告は満一五歳)と平成七年(原告は満一七歳)から三年ごとに、金七万三七〇三円の両短下肢装具硬性、金一二万一九五六円の両短下肢装具両側支柱、合計金一九万五六五九円の購入が必要であることが認められる。

そして、別紙計算書8記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(9) 同部品 金二七万八七九八円

甲第三号証の一、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、新規に両短下肢装具を購入しない年には、底ゴムの交換に金一万六〇〇〇円が必要であることが認められる。

したがって、別紙計算書9記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、金二七万八七九八円である。

(10) 脊髄刺激装置送信器 金一一〇万九六五四円

甲第四号証の一、二、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、原告が退院した平成四年から、五年に一回、金三二万円の脊髄刺激装置送信器の購入が必要であることが認められる。

そして、別紙計算書10記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(11) 脊髄刺激送信器用アンテナ 金四五万六七一三円

甲第四号証の一、二、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、原告が退院した平成四年から、毎年一回、金一万六八〇〇円の脊髄刺激送信器用アンテナの購入が必要であることが認められる。なお、原告は半年に一回の購入が必要である旨主張するが、採用の限りではない。

したがって、別紙計算書11記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、金四五万六七一三円である。

(12) 吸引器 金四六万四三二二円

甲第五号証の三、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、原告が退院した平成四年から、五年に一回、金一三万三九〇〇円の吸引器の購入が必要であることが認められる。

そして、別紙計算書12記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(13) 同定期点検 金〇円

定期点検の金額を認めるに足りる証拠がない。

(14) リクライニング式ソフトローラーベッド 金〇円

原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果によると、原告は、右尋問がなされた平成九年一月二二日まで、いまだリクライニング式ソフトローラーベッドを購入していないことが認められる。

したがって、右購入は、原告の後遺障害の程度に照らしても、必要なものとまでは認めることができない。

(15) 紙オムツ等 金九〇四万二七二七円

甲第七ないし第九号証、第一〇号証の一、二、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、原告が退院した平成四年から、紙オムツ、オムツカバー、脊髄刺激装置用電池、綿棒の購入費用として、年間金四七万〇〇一九円を要することが認められる。

そして、別紙計算書15記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(16) 車椅子仕様車 金〇円

現在のわが国の自動車の普及状況に照らすと、通常の自動車と車椅子仕様車との差額が損害となるというべきである。

ところで、原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果によると、原告は、右尋問がなされた平成九年一月二二日まで、いまだ車椅子仕様車を購入しておらず、通常の自動車で移動していることが認められる。

したがって、右購入は、原告の後遺障害の程度に照らしても、必要なものとまでは認めることができない。

(17) 通院交通費 金一九八二万五八五八円

原告法定代理人小澤隆一の本人尋問の結果、弁論の全趣旨により、通院交通費として、年間に少なくとも原告が主張する金額である金一〇三万〇五〇〇円を要することが認められる。

そして、別紙計算書17記載のとおり、当裁判所が相当と考える計算方法による金額は、原告主張金額を上回る。

(18) 小計

(2)ないし(17)の合計は金三五〇九万一六〇六円である。

(八) 慰謝料

前記認定の本件事故の態様、当事者間に争いのない原告の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺障害の内容、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告に生じた精神的損害を慰謝するには、金二四〇〇万円をもってするのが相当である。

(九) 小計

(一)ないし(八)の合計は金一億九一二六万一八六七円である。

2  過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する原告の過失の割合を七五パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、原告の損害から右割合を控除する。

したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金四七八一万五四六六円となる。

計算式 191,261,867×(1-0.75)=47,815,466

3  損害の填補

原告の損害のうち、金三九四三万八九三五円が填補されたことは当事者間に争いがない。

よって、右金額を原告の損害から控除すると、金八三七万六五三一円となる。

4  弁護士費用

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告らが負担すべき弁護士費用を金八〇万円とするのが相当である。

第四結論

よって、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

別紙計算書

2 電動チルトテーブル

基礎価格 597,400円

1÷(1+0.05×n)の総和 3.7996

ただし、n=4、12、20、…、68

597,400×3.7996=2,269,881

3 同部品(マットレザー)

基礎価格 20,000円

1÷(1+0.05×n)の総和 9.9510

ただし、n=(6、8、10)、(14、16、18)、…、(62、64、66)、70

20,000×9.9510=199,020

4 同部品(アクチュエータモータ)

基礎価格 58,500円

1÷(1+0.05×n)の総和 6.6297

ただし、n=(7、10)、(15、18)、…、(63、66)、71

58,500×6.6297=387,837

5 同部品(コントローラ)

基礎価格 30,300円

1÷(1+0.05×n)の総和 3.1647

ただし、n=9、17、25、…、65

30,300×3.1647=95,890

6 車椅子本体

基礎価格 134,905円

1÷(1+0.05×n)の総和 7.5466

ただし、n=4、6、10、14、…、70

134,905×7.5466=1,018,074

7 同部品

基礎価格 36,400円

1÷(1+0.05×n)の総和 6.2040

ただし、n=8、12、16、…、68

36,400×6.2040=225,825

8 両短下肢装具

基礎価格 195,659円

1÷(1+0.05×n)の総和 9.5406

ただし、n=4、6、9、12、…、69

195,659×9.5406=1,866,704

9 同部品

基礎価格 16,000円

1÷(1+0.05×n)の総和 17.4249

ただし、n=5、(7、8)、(10、11)、…、(70、71)

16,000×17.4249=278,798

10 脊髄刺激装置送信器

基礎価格 320,000円

1÷(1+0.05×n)の総和 5.9303

ただし、n=3、8、13、…、68

320,000×5.9303=1,897,696

11 脊髄刺激送信器用アンテナ

基礎価格 16,800円

1÷(1+0.05×n)の総和 27.1853

ただし、71年の新ホフマン係数29.9163と3年の新ホフマン係数2.7310との差

16,800円×27.1853=456,713

12 吸引器

基礎価格 133,900円

1÷(1+0.05×n)の総和 5.9303

ただし、n=3、8、13、…、68

133,900×5.9303=794,067

15 紙オムツ等

基礎価格 470,019円

1÷(1+0.05×n)の総和 27.1853

ただし、71年の新ホフマン係数29.9163と3年の新ホフマン係数2.7310との差

470,019×27.1853=12,777,607

17 通院交通費

基礎価格 1,030,500円

1÷(1+0.05×n)の総和 27.1853

ただし、71年の新ホフマン係数29.9163と3年の新ホフマン係数2.7310との差

1,030,500×27.1853=28,014,451

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